今回はレコーディングのため、わざわざ特別に作っていただいたシルバーソニック・ブラック・ラッカーのテナーとソプラノだけに、壊れてもらってはたいへん困るのである。ニューヨークにはこの楽器のスペアなどないからだ。
楽器は特にレコーディング中は非常にバランスがくずれやすくなるものだ。スタジオの各ブースの温度差にも敏感に反応してしまう。
レコーディングを行った「マスター・サウンド・アストリア」のエンジニア、ディビットは僕に言った「デビット・サンボーンはレコーディングの時、4~5台のサックスを持ち込んでくる。それに驚いたことにリペアマンも同行するんだ」また「録音の途中にサックスのバランス調整だけで数時間中断してしまう」とも言い、笑っていた。サンボーンは自分にとっていい音がでるまでまったく妥協しないのも素晴らしいし、またそれを認めるレコーディング・スタッフも見事だ。
僕はアメリカに着くとさっそく友人のリペアマン・ロバート・ロメオのファクトリーへこのヤニ−・ホーン(ヤナギサワ・サックスのことをニューヨ−カーはこう呼ぶ)を持ち込んだ。彼は僕がニューヨークにいる時、いつでもサックスの調整をしてくれるいわばホーム・ドクターのような存在だ。
優れたリペアマンがいてこそ安心してプレイできる。そんな彼のもとへはソニー・ロリンズ、ジョー・ヘンダーソン、ボブ・バ−グ等、一流アーティストたちが修理や調整のためにやって来る。彼はリペアマンとして、また音楽を愛する同業者として、優れたアーティストだと僕は思っている。
そんな彼が僕のケースを開いて、このシルバー・ソニック・ブラック・ボディのヤニ−・ホーンを見た時、開口いちばん叫んだ。「ビューティフル・ホーン!」
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