2016年09月13日
【転載 『楽譜のいらない音楽授業』_ 第11回 ♪ 大嫌いな歯医者 ♪ vol.3 (最終話) 】
肺炎でドクターストップを受けた田野城は
ニューヨークレコーディングを中断し、
音楽業界から暫く退いていた時期があります。
その間、自身の経験から強く音楽教育に関心を持ち、
さまざまな垣根のない教育実践を行ってきました。
その活動が10年目に入った頃、和多田 進さんから
お声をかけていただき、和多田さん編集長の地域ポータルサイト
『北海道人』にて初めてのメルマガ連載を担当させていただきました。(2007年3月)
「好きなことを自由に語っていい」ということで始まった
『 田野城寿男の「楽譜のいらない音楽授業」』。
演奏家に本格復帰を決意するまでの約1年6ヶ月続いた記事の中から
スタッフが選んだいくつかを皆さんとシェアしたいと思います。
型破りで破天荒な田野城の半生や、考え方が読者の皆さんの清涼剤になれば幸いです。
では、大嫌いな歯医者vol.3 (最終話) をどうぞ。
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【 ♪ 大嫌いな歯医者 ♪ vol.3 (最終話) 】
結果的にすごかったのは、全ての治療が終わるまでの間、
私が医療器具を一本も見なかった事だ。
麻酔をかける時は、別のソファーに移動させられたが、
そこも非常に居心地が良く、気持ちのよい音楽に
寝てしまいそうになったほどだ。
歯茎に部分麻酔としてシートを当てられた時も(注射針ではない)
見えるのは彼の手だけ。
彼が私に話しかける時も、彼の手は後ろに回されていて、
一切何を持っているのか分からなかった。
そして、いつも笑顔の彼。
私はその歯医者が気に入ってしまい、結局親知らずの他に、
虫歯10数本全てを治してもらった。
それもわずか2、3週間足らずだったと思う。
治療の最後に私はドクターに聞いた。
この歯医者とは思えない空間や、治療方法について。
すると彼は、丁寧に説明してくれた。
「患者に精神的なプレッシャーを与えない為の
治療方法が研究されています。
ここでは、それを実践しているのです」
治療器具が見えないのは、ソファーにヒントがあって、
器具の全てがソファーの後ろに
きちんと収納できる仕組みになっていたそうだ。
丁度そんな矢先、自宅でニュース番組を見ていたら
小児科の歯医者の特集が流れていた。
虫歯の治療を嫌がる子供に、歯科医が縫いぐるみを着て登場する。
さっきまで泣き叫んでいた子供は上機嫌になって、
しまいに診療室に入って口を開けてしまう。
その映像は、まさしく私が受けた治療と考え方が同じだった。
つまり、肉体的な痛みだけでなく、精神的な痛みをも和らげる方法。
余談だが、日本に帰国して10数年経った頃。
虫歯の治療に横浜の歯医者に行った。
そこの歯科医が私の口を診るなり、一言。
「どちらで、歯の治療を受けましたか?」
「ボストンです」と私。
「……やっぱり。この技術は凄い」
ー終わりー
(スタッフより)