2010年03月19日
ビレッジ・バンガードのデクスター
人生とは奇妙なもので、
『知らなければ良かった~』
と思える事があります。
これは決してネガティブな意見ではありません。
ただその現実に遭遇することで
自分の価値観を大きく変えられてしまう。
あれは僕がボストンに留学していた時のことでした…
今は亡きウッディー・ショウという黒人トランペッターが
水星のごとくジャズシーンに登場しました。
彼の曲や演奏スタイルがあまりにもカッコ良かったので
僕はすぐに惹かれてしまいます。
いったい彼は何を考えているのか訊いてみたい!!
当時、僕はかなり行動力があったので
『ならば会いに行こう!!』
一路ニューヨーク・マンハッタンへ向かいます。
目指すは名門ジャズクラブのビレッジ・バンガード。
当夜はサックス奏者のデクスター・ゴードン・クインテットが出演。
ウッディー・ショウは
バンドメンバーとして参加していました。
彼の演奏を間近で聴けたこと、
そして彼と話し、彼の考えを知ったことは
当時大学生だった僕にとって
大変貴重な経験の一つとなっています。
ところがまったく想定外で驚かされたのが
その夜の主人公デクスター・ゴードンの演奏。
「俺の音を聴け!!」と言わんばかり。
ノンマイクにもかかわらず彼の奏でるテナーサックスから
ゆッたりと、それでいてドラムス、ベース、ピアノに
まったく負けない強烈な音が客席に飛んできたのです!
「なんと太く力強い音なんだろう!!」
それはこれまで僕が経験したことのない
迫力満点の『音』だったのです。
もう素晴らしいの一言。
と同時にガツーンと衝撃を受けました。
知らなければ楽だったかもしれない…
「今まで自分の出してた音は何だったんだ。
これではダメだ!!
彼の膝元までもたどり着けないじゃないか。」
自分の音をガツンと否定されることになったあの出会い。
知らなければもっと楽で良かったかもしれない。
でもそのおかげで今の自分がいるという訳です。